【綿井健陽ルポ戦禍の街】砲撃続く“バフムト近郊”日常の現実と痛苦◆日曜スクープ◆(2023年4月16日)

ウクライナの空を引き裂く戦場の轟音が、生活を営む市民を脅かす。ロシアとの激しい戦闘が続く東部ドネツク州要衝バフムト近郊の街は、砲撃音が断続的に鳴り響き、住民は恐怖と隣り合わせの生活を強いられている。今年2月下旬、バフムト近郊の“戦禍の街”チャシウ・ヤルに、ジャーナリスト・綿井健陽氏が入った。綿井氏はこれまで、アフガニスタンそしてイラクなど、数多くの戦争取材を敢行し、昨年3月にはウクライナに入り、キーウ近郊の街ブチャの虐殺現場などを伝えてきた。チャシウ・ヤルは、バフムトから西に約10キロに位置し、ロシア軍による侵攻の前は、1万2000人が暮らしていた。2月下旬には、7割以上の住民が避難し、街には約3000人が留まっていた。先月、今月とロシア軍がさらに街に迫り、脱出する住民が増えたため、現在は約1500人にまで減少した。

綿井氏が取材中にも、ウクライナ軍が反撃する砲撃音が鳴り響く。チャシウ・ヤルはウクライナ軍の反撃が断続的に行われているため、ロシア軍に狙われ、被害が相次ぐ。この街で生活するレオニドさん(44)は、綿井氏の取材に「ほんとうに酷い状況だ。砲弾、爆発。住宅の家屋を襲ってくる。この町にある家は半分がやられている」と語った。政府や軍から住民への避難指示などが出されているが、街に残る住民もいる。「チャシウ・ヤルは高齢者に加え、障害を抱える住民も多いといわれる。侵攻前から貧しい地域で、避難したくても経済的に避難が困難な住民が多いという実情が背景にある」と綿井氏は指摘する。

チャシウ・ヤルはロシアによるインフラ攻撃を受け、水道、電力網、また、ガスなどのインフラ設備が破壊されている。オルハさん(67)は「水も出ないし、ガスも止まっていて、アパートの中は7度。明かりもない。何もない。生き残る方法は、水を手に入れるだけしかない」、この街で生きる切実な生活の様子を綿井氏に語る。危険な状況下でも街に残る住民は様々な事情を抱えている。「パンをもらうために3時間も歩いたわ」。ハリーナさん(85)は、食料を求めて自宅から3時間の距離を歩いて配給所に訪れた。脳に障害がある息子を介護する必要から避難ができず、街で生活を続けている。「病気の息子と暮らしています。息子は脳に障害があります」と息子の介護のために、戦禍の街に残り続ける思いを語った。

戦争の不条理はいつも無辜の民に襲いかかる。平穏な暮らしを奪われ、住み慣れた故郷に別れを告げ、戦禍を逃れる人たちがいる。昨年4月、鉄道駅が攻撃され、多数の市民が死傷したクラマトルシクは、鉄道の重要拠点でも知られる。チャシウ・ヤルから北西に約25キロ離れ、各地からの市民の避難拠点となっている。各地の戦闘地域から逃れた市民を収容する臨時宿泊所が設置されている。綿井氏は、バフムトからクラマトルシクに逃れたマルハリータさん(70)と出会った。「激しい攻撃があるからです。それに私は年老いて、走れないのです。息子は殺され、家は焼け落ちました。財産はすべて焼かれました。何もないのです。ボロボロのリンゴの木が残っているだけです」とバフムトの家を追われた事情を語った。ジャーナリスト・綿井健陽氏が取材を通じて強く感じた印象とは何か。戦禍の街で生活を営む市民の苦悩、ロシアの侵略から逃れた避難民が受ける不条理を明らかにする。

★ゲスト:綿井健陽(ジャーナリスト)、駒木明義(朝日新聞論説委員)
★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/東海大学教授)
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