2期目に入ったトランプ大統領のもとで、アメリカの民主主義は、後退局面に入ったという悲観論も聞かれます。民主主義をテーマとした著書で知られる国際的な政治思想家、フランシス・フクヤマ氏に聞きます。
日系3世のフクヤマ氏。アメリカの歴史でも極めて異例な返り咲き政権をどう予測するのでしょうか。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「(Q.トランプ政権の2期目は、1期目と何が違います)さらに、ひどくなるでしょう。最初の選挙は勝てると思わず、価値観を共有する側近が少なかった。今回は、望み通りの閣僚がそろった。だから移民の大量強制送還や、全世界への関税という脅しは、本気だと受け止めています。彼は、アメリカが“いじめっ子”の外交政策を持ち込んだ。例えば、グリーンランドやパナマへの脅しです。“脅し外交”は、今後、アメリカの外交政策の一部になるでしょう」
“脅し外交”の一方で、アメリカは“弱体化”すると指摘します。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「トランプ氏が分断を招き、アメリカは弱体化します。『ロシアの独裁主義に断固反対』トランプ氏にそんな考えはない。分断こそ、アメリカ最大の弱点。多くのアメリカ人、とりわけ、右派は最大の敵が左派であり、中国やロシアではないとみている。アメリカの影響力と権力の非常に大きな弱点になるでしょう」
就任後、半年以内にウクライナでの停戦を実現させると主張するトランプ氏。
ウクライナは、ロシアに国土の2割近くを占領されたまま、戦線はこう着状態にあります。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「(Q.トランプ氏2期目、ウクライナは?)誰にもわからないでしょう。彼は、ウクライナに同情もせず、プーチン氏を称賛していますが、“負け犬”と見られるのを嫌います。ロシアに征服を許してしまえば、トランプ氏のイメージに差し障る。トランプ氏は、これを避けるため、何らかの交渉に出るでしょうが、プーチン氏の譲歩は考えられない」
日本周辺に目を転じると、気になるのは、中国の軍事的な動きです。バイデン前大統領は、中国が台湾に侵攻したら、台湾を守るとの発言を繰り返してきました。しかし、トランプ氏には、そうした姿勢が見えないといいます。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「トランプ氏は、軍事力の行使にとても消極的な人物です。中国が台湾進攻を決めたとしても、彼が行動を起こすとは思えません」
フクヤマ氏の原点となった『歴史の終わり』。自由、平等といった価値に基づく、リベラルな民主主義こそが人類の政治制度の最終形態だとうたわれました。
しかし、いまの世界を見渡せば、権威主義的国家が国際秩序を揺るがし、西側諸国でも民主主義が後退しているとの声が広がっています。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「民主主義は民衆の選択、リベラルが指すのは法の支配や政府権力を制限する“抑制と均衡”。インド・ハンガリー・アメリカで民主主義の後退が危惧されるが、『政府の権力を制限すべき』との考えが脅威にさらされている。トランプ氏は、司法による制限を嫌い、同様の考えが世界中を浸食しています」
2020年の選挙結果を認めない支持者らが議会を襲撃した事件。トランプ氏は、就任早々、彼らに恩赦を与えました。一方で、自らの敵は訴追するとの発言を繰り返しています。
政治思想家 フランシス・フクヤマ氏
「(Q.トランプ氏がリベラル民主主義の破壊者になる恐れは)アメリカは耐えられるでしょう。ただし、国家制度は弱められます。彼は、敵を排除したがっている。司法省を利用し、政敵を訴追するつもりです。これは裁判と検察制度に対する重大な侵害です。彼がつくる悪い前例は、後世に受け継がれてしまうでしょう。大失敗もありえます。各国に高い関税を課せば、インフレ率は直ちに上昇し、有権者は受け入れないでしょう。台湾侵攻もありえることだし、あらゆることが起こり得る。これまでのように運が味方し、成功する可能性もある。経済は成長を続け、国民は、功績を称えるかもしれない。どちらの結果になるか、いまは予測したくありません」
◆ワシントンにいる大越健介キャスターに聞きます。
(Q.インタビューを通じて、民主主義について、どう感じましたか)
大越健介キャスター
「私たちが当たり前のものとして考えてきた民主主義という政治の姿は、しっかりとメンテナンスする努力を怠れば、衰退してしまうものなのだということ強く認識しました。それは残念ながら世界の各地でみられる現象であり、フクヤマ氏は、表向き民主主義という形態をとっていても、独裁的な指導者を生み出すこともあれば、社会の分断を生み出すこともあると分析していました。日系アメリカ人のフクヤマ氏のルーツである私たち日本に対してはなおのこと、自由や平等といった価値を大切にしながら、民主主義を育んでほしいと、訴えていたように感じました」
(Q.ロサンゼルスの山火事の取材から始まって、トランプ氏の就任式までを取材して、どのようなことを感じましたか)
大越健介キャスター
「アメリカは、世界の超大国であることに変わりはありませんが、トランプ大統領のもとでのアメリカが激しく分断して、もはや世界のリーダーであるという気概を失っていく可能性が高いことを、私たちは理解するときにきています。アメリカとの同盟関係が決定的に重要なのは変わらないにしても、そこに過度に依存することなく、日本独自の外交や安全保障、そして、経済発展の道筋を確立していくために、議論を急ぐ必要があると感じました。トランプ大統領という予測不能なリーダーの言動に一喜一憂するよりも、日本の強みと弱点を正確に自覚して、これからの不透明な世界に踏み出すときが来たのだと痛感させられた、今回の一連のアメリカ取材でした」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2025
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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